社労士業と文章生成AI:労務相談編

前回は、上記テーマで就業規則の作成について検証したので、今回は労務相談について試してみたいと思います。前回記事では、使用している文章生成AIについても説明させていただいているので、まだ見てないよ!という方はぜひ以下のリンクからご覧ください。

社労士業と文章生成AI(ChatGPT、BingAI):就業規則編

今回は少し箸休めとして、下手をすると多方面から睨まれそうな?話題で投稿させていただきます。あくまで一社労士の意見および検証として参考程度にお読みください。 前置…

Bing AIを使ってみる

さっそくBing AIを使って相談してみます。
(ChatGPTに関しては、無料版有料版に関わらず利用している情報が2021年9月時点のもので、近年の法改正に対応しておらず労務相談には向かないため割愛します)

Bing AIには3つの回答のモードが用意されています。
①より創造的に
②よりバランスよく
③より厳密に

下に行くほどより慎重で、回答にソースを求めます。
上記全てで「私はクリニックの院長です。スタッフの働きが悪いので来月から給料を下げようと思います。これにより起こりうる問題と、予防策をおしえてください。」というアバウトながら、問題の起きそうな質問を投げかけました。

①の回答がこちら。

(クリックすると大きくなります)

文章そのものはいたって普通で、用語も個別に見れば間違ったものは使われていないのですがよくよくみるとおかしな点が出てきます。
番号1の部分は懲戒としての減給、番号2の部分は会社都合による本人同意の上の減給を指しているのでしょうが、この部分がごちゃまぜになっています。両者は全くの別物で、懲戒としての減給は就業規則(懲戒規程)に従って行うものなのでプロセスはよりシンプルで、説明はいるものの本人の同意や納得は必須ではありません。
番号3の部分も注意が必要で、懲戒としての減給は固定的給与の変動には当たらないため、随時改定の対象にはならないのですがその点言及がありません(会社都合による減給なら随時改定の対象になるので正しい)。
これだけ回答の精度が低いと、使い物になりません。

続いて②の質問の回答がこちら。


これはコンサルタントなら、一番嫌われる回答でしょう。
給料を下げると様々なデメリットがあるからやめましょうと言うばかりで、再度給料を下げたらどうなるかの説明を促しても、具体的な法的危険性について言及せずやめましょうの1点張り。

理由もないのに給料を下げたいと思う経営者はなく、はっきりとした理由があるから、よくよく考えながら検討しているわけです。それを減給はだめだ、なんて綺麗事しか言わないのは回答として論外です。まったく使い物になりません。

最後に③の回答がこちら。


なかなかに良い!お堅い回答である以外は突っ込みどころが何もありません。
「厳密に」の名の通りしっかりしています。
ただ、今回は特に誤りは見られませんでしたが、多くの質問を重ねれば参照元そのものの誤りに巻き込まれる形で誤った回答をする可能性があります。
より重要度の低いテーマで、補助的に使うのであれば役立つかもしれません。

番外編として、社労士の私の回答

まずはバックグラウンドの把握として、減給をなぜ考えているのかをお聞きします。範囲は特定の個人だけなのか、それとも経営上の理由で広範囲になのか。特定の個人ならば、勤務態度が悪いからなのか勤務成績が悪いからなのか。勤務態度が悪いならどのように、現在の規則は、どんな性格の人か、などと続きます。

そしてそれらの深堀りが終わった後に、給料を下げた場合の危険性や、他に考えつく代替策などもあれば提示した上で比較検討いただくことになるでしょう。

つまりは色々と聞いてからでないと回答を出せない、ということになります。
それでもどうしても何か出せ、となれば上記③に近い玉虫色の回答になるでしょう。それだけ上記③はよくできています。

上記テストを踏まえた上での私の考え

Bing AIを労務相談業務に使うなら「より厳密に」モード一択でしょう。
それでも、専門家と比べると以下のような大きな欠点があるように思いました。

・「聞く力」≒「応用力」がない
 相談内容に対して、これがきたらこれを聞く、そのあとはこれに注意、と専門家であれば相談者に聞くべきことや考えなければいけないことが次々と浮かんでくるのですが、AIは基本的にそれをしてくれません。結果的にAIは上記③の事例のような無難で使いまわしのきく回答まではできるのですがその先がないのです。

・責任がない
 上記でもわかる通り、時にAIは間違った情報を収集し提供することがありますが、それにより利用者が被害を被ったとしてもAIは責任を取ってくれません。これが専門家なら責任問題に発展しかねないので、自身の仕事とプライドにかけて発言は慎重に行うでしょう。少なくとも私は、少しでも引っ掛かりがあるならしっかりと裏付けをとります。
 
・うそをうそと見抜ける人でないと使うのは難しい
 間違った情報が提供された場合において、その嘘情報について土台となる知識がなければ即座に見抜くことができません。ただ、その誤りを恐れて根拠となる情報を色々調べていると結局時間がかかり生成AIのメリットが消えてしまいます。

結論として、労務相談は生成AIで大丈夫というレベルにはまだ達していません。
とはいえ、即座に回答してくれる点は大きな魅力なので以下のような使い方なら十分役立つと考えます。

・重要度の低いテーマで補助的な使用をする
・専門家他関係各者からの情報についてこれで本当にあっているか?を確かめる

まとめ

労務相談業務に文章生成AIが使えるかを考察しましたが、いかがだったでしょうか。

ChatGPTなんて1年前はほとんど誰も知らなかったものが現状でこれだけのことができるのです。1年後2年後にはどうなっているのが分からないのが楽しみであり、末恐ろしいところでもあります。

ただあくまで現状では、文章生成AIを労務相談業務のメインツールとして使うには厳しいが、補助的には使い道がありそうという結論になります。取り返しのつかないような慎重な案件は特に、専門家に相談した方が良いでしょう。

弊所では、労務相談のみのプランから提供させていただいております。社労士としての知識と、医療業界での経験を組み合わせた丁寧なコンサルティングをすることで貴院の経営を全力でお支えします。

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