社労士業と文章生成AI(ChatGPT、BingAI):就業規則編

今回は少し箸休めとして、下手をすると多方面から睨まれそうな?話題で投稿させていただきます。
あくまで一社労士の意見および検証として参考程度にお読みください。

前置きとして

筆者は社会保険労務士なので人事労務分野のプロですが、IT分野のプロではありません。

PC使用歴は中学生の時に親からプレゼントされて以来20年余り。ネット閲覧、資料作り、表計算、ひいてはPCパーツのチェックと交換、関係機器も含めたネットワーク設定、自作ホームページの作成運用(本ホームページ)も調べながらであればこなせるため、「既存のシステム(アプリ)を使う」ことにおいては十分なITリテラシーがあるのではないかと思います。
ただ、プログラミング経験はないため「新しくシステムを作る」ことに関しては素人です。

長々と、自身をを守るための前置きを失礼しました。今回は就業規則作成において実際にどれほど使えるかを見ていきます。

その他の業務、例えば書類作成と申請代行、勤怠管理、給与計算、助成金の申請代行についてはそもそも現在の文章生成AIが書類作成と内容のチェック、提出先担当者やスタッフとの折衝という最も大事な部分に対応していないため評価外とします。
労務相談業務については一定の用途がありそうなので、こちらは別記事にてご紹介します。

それでは、みていきましょう。

ChatGPT3.5を使ってみる

文章生成AIを一躍有名にしたChatGPT。「ワールドカップで最も優勝した国は?」「たまねぎとじゃがいもで作れる料理いくつか教えて」「愛と憎悪をテーマにした短編小説を作ってみて」などなど、簡単な質問から無茶ぶりのような話までなんでも人と会話するように答えてくれます。

そんなChatGPTですが、就業規則を作ってくれるかを試してみました。
(無料版のChatGPT3.5を使用)

まずはこう投げかけてみました。(全国のひらまささんごめんなさい)
「私はひらまさクリニックの院長です。就業規則を作ってください。」

さっそくかえってきたのがこちらのペライチ。
具体的な内容について全然書いていないので少し質問を足しました。
「私はひらまさクリニックの院長です。詳細な就業規則を作ってください。」


だいぶましになりました。
とはいえ、休日、賃金の締日および支払の時期、昇給に関する事項などが記載されていないので使いものになりません。(これらは就業規則の絶対的必要記載事項なので必ず記載が必要)

記載が足りない、表現が口語的で規則になじまない(「暴力・嫌がらせは絶対に許さない」等)、内容が薄すぎるなどの理由から実用には耐えないでしょう。
標準的な体裁と内容については厚生労働省からのモデル就業規則が参考になるので、ぜひこちらと見比べてみてください。(モデル就業規則をそのまま使うといくつか問題が発生しますが、今回は割愛させていただきます)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/zigyonushi/model/index.html

また、ChatGPTに関しては無料版のGPT3.5、有料版のGPT4に関わらず、利用している情報は2021年9月時点のものになります。近年の法改正に対応していないのも大きな弱点と言えます。

Bing AIを使ってみる

Bing AIはMicrosoft社が提供している、OpenAI社のChatGPT4を組み込んだAIで、OpenAI公式サイトでは有料なGPT4を無料で試すことができます(少々使い勝手や機能は違いますが)

こちらの良いところは、現在のネットの海から情報を検索し引用してくれるので、法改正にもついてこれるところです。

回答のモードは3つ用意されています。
①より創造的に
②よりバランスよく
③より厳密に

下に行くほどより慎重で、回答にソースを求めます。
上記全てで「私はひらまさクリニックの院長です。就業規則を作ってください。」
と質問を投げかけてみましたが②③は「私は情報検索と応答に特化しています」と作成自体を断られてしまいました。

①に投げかけたところ、追加でいくつかの質問に答え作成を依頼した結果がこちら。


ChatGPT3.5よりだいぶ良い!モデル就業規則にある事項を参考にしつつ、クリニック等一部の事業場のみの1週44時間労働(特例措置対象事業場)にも対応させて作られているのが分かります。これは期待できる・・・!と思ったのですが、2ページ目下部のとおり、文字数制限にてぶつ切れとなってしまいました。続きの作成を促すものの、再び最初から書き始めるのみ。

規則の体裁、記載内容から考えるとChatGPT3.5より実用的ですが途中までしか書いてくれないのは致命的です。
「賃金規程の作成」「服務規程の作成」とそれぞれ頼むと必要記載事項についても記載されたそれなりのものを作ってくれたので、就業規則内の事項を細かくばらして作ってもらうことで応用はできそうです。

まとめ

ChatGPTとBing AIを使用して就業規則作成について検証してみましたがいかがでしたでしょうか。

結論としては、ChatGPT3.5については使用をおすすめしない。Bing AIについては細かくばらした上での規程概要の確認、記載漏れ防止のためのチェックのためなど一部用途はありそうです。

ただ、どちらにしてもそのまま使用できる就業規則を作れるようなものではないのは確かです。記載もれと同じかそれ以上に怖いのが、労働者有利に書きすぎてしまうことであり、拾い物がベースの生成AIにはこれを防ぐ術がまだ搭載されておりません。

やはり現時点では、就業規則作成は専門家に依頼するのがベストでしょう。