クリニックに就業規則は必要?メリット/デメリットに分けて解説

職場での労働条件を定めた就業規則。先生方も、今や昔のお勤め先で就業規則をしっかりと読んだことがある人は少ないのではないでしょうか。とにかく長いし退屈・・・就業規則を隅々まで読みたくなるのは私のような社労士や人事部勤めの中に一定数いる規則マニアくらいかもしれません。
そんな就業規則ですが、いざ自分で定めるとなると尻込みしてしまうものです。
「何から書いたら良いのか分からない」「モデル就業規則は大丈夫なの?」「社労士に作ってもらいたいけどどこも値段が高い」「うち10人未満だしまたそのうち定めよう」こんなところでしょうか。
筆者の意見としては、

すべてのクリニックは、社労士又は労務関係に強い弁護士監修の上で就業規則を作成した方が良い

と考えています。以下、順序説明させていただきます。

そもそも就業規則って何?簡単におさらい

就業規則とは労働条件や規律について定めた規則で、作成した事業所内でのみ適用されます。この就業規則とは総称であり、一般的には雇用形態別に分けるのと(正職員就業規則、パート職員就業規則)、場合により別規程に分ける(正職員賃金規定、育児介護休業規程、他多数)ことをします。これにより、大企業ともなると数十の規定集になります。

また、パートを含めて常時10人以上の労働者を使用するクリニックには作成と管轄の労働基準監督署への届出義務が発生します(労働基準法89条)。
言い換えると、10人未満のクリニックには上記義務はないことになります。
ならば開業時10人未満なら当面は大丈夫では?となるかも知れませんがそれには危険があります。以下、作成しないデメリットから見ていきましょう。

作成しないことのデメリット

懲戒処分ができない

一般的に、法律違反により捕まると罰金等の刑罰を処されることになりますが、行政が国民に刑罰を科すにはあらかじめ法律に定める必要があり、その範囲内でしか科すことができません(罪刑法定主義)。
これと同じことがクリニック運営にも言えます。つまり、クリニックがスタッフに懲戒処分をするには、あらかじめ就業規則に定める必要があり、その範囲内でしか行えないのです(労働契約法第15条)。

もちろん合理的な範囲での注意や指導は懲戒処分ではないので規定なしに行えます。しかし、例えば無断での遅刻や欠席を繰り返し反省も薄いスタッフがいたら注意や指導だけで足りますか?
実際に使うかは慎重な判断が必要ですが、「減給」「出勤停止」「懲戒解雇」等の手段を備えておくことが運営の安心と不利益行為の抑止につながります。
(規則なしで行える普通解雇もありますが、長くなるので本記事では割愛させていただきます。)

院内の秩序が乱れ、離職率の増加につながる

家族経営であったり、旧知の仲間のみで起業している場合など就業規則が必ずしもいらない場合もあるでしょう(だからこそ10名未満事業所の作成届出は任意にしているとも言えます)。
クリニックではなかなかそうはいかないでしょうから、スタッフに統一のルールを示し人間関係を円滑にするために就業規則が必要になってきます。決まりがなくあやふやであると、秩序が乱れて問題が起きやすくなってしまうのです。

例えば、就業規則の中に勤務にあたってのルールや行動規範を記載した服務規律(身だしなみ、勤務態度、ハラスメント他)がありますが、これを定めてクリニックとしての考えを表明し、スタッフにも共有させておかないとそのずれからスタッフ間の問題が生じやすくなるのは想像に難くないでしょう。

また、院長からスタッフへの扱いにもぶれが生じやすくなってしまいますが、そういったところはスタッフの不満が最もたまりやすい部分でもあります。就業規則に基づいた公平な扱いを目指すべきでしょう。

その他デメリット

・就業規則なしだと「ブラック」なイメージを持たれやすい
・助成金の申請ができない

作成することによるデメリット

では反対に作成することによるデメリットはあるの?というと、条件付きですがあります。

不利益変更がしにくい

就業規則の持つ性格として、個別の労働契約における労働条件が就業規則で定める労働条件に達しない場合は、その部分において個別契約が無効になり就業規則の労働条件が適用されるというという最低基準効があります(労働契約法12条)。そして、その就業規則を労働者からみて不利な変更(不利益変更)をするためには基本的には全スタッフに説明した上で個別に同意を得て、個別の同意書を作成してから変更するのが原則となります。個別の同意を得ないうえでの変更は5つの要件が加わり、さらに厳格になります(労働契約法9条、10条)。

つまり、一度不当にゆるい就業規則を作ってしまうと大変ということです。スタッフに頭を下げて変更できれば良い方で、それでも同意が取れずに変更できない可能性が十分にあります。
社労士等の監修のもとで、労働基準法や民法等の最低基準であったり、業界の基準から大きく乖離しない就業規則を作るべきです。

コストがかかる

先生方を一番尻込みさせるのはここではないでしょうか。
費用もピンからキリまでで、そもそも見積にて決定としている事務所が多数(弊所もそうですが)のため結局いくらかかるのか分からない(このあたりは次回記事に分けて投稿します)。
規則の作成目的(例:作成義務を果たすため簡単なものでいいor安全のためしっかりしたものを)をはっきりさせた上で、実績や人柄において信用できる専門家に依頼すると良いでしょう。

まとめ

以上、説明させていただきましたがいかがだったでしょうか。
人を雇えば労働トラブルは付きものですが、そのトラブルを減らしたり、深刻化するのを防ぐために就業規則は大変役立ちます。労働トラブルを減らすことは社労士の使命の1つだと思っているので、本稿を機に作成を検討いただければ大変うれしく思います!

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